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宮崎地方裁判所 昭和55年(ワ)97号 判決 1982年5月28日

原告

株式会社東食

右代表者

富永鐵男

右訴訟代理人

山田重雄

右同

山田克巳

被告

株式会社高千穂相互銀行

右代表者

後藤達男

右訴訟代理人

佐藤安正

主文

一  被告は原告から別紙担保物件目録記載の根抵当権及び代物弁済予約による所有権移転請求権(仮登記担保権)全部の譲渡を受けるのと引換えに、原告に対し、金一億一、三六四万八、三四五円及びこれに対する昭和五四年一一月二日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮りに執行できる。

事実《省略》

理由

第一当事者間に争いのない事実

<省略>

第二被告の弁済約束の性質及び抗弁の検討

一  事実の認定

<証拠>を総合すると

(一)  昭和四五年九月頃、被告は別紙物件目録記載一の土地(以下本件土地という)上で旅館を経営していた那須久義に対し相互銀行取引に基づく約三、〇〇〇万円の債務を有していたところ同人の旅館経営が不振に陥り本件土地と旅館とが第三者の申立に基づき競売に付された。

(二)  昭和四五年九月一六日被告は本件土地と旅館とを競落した。

(三)  被告は、那須に対する多額の債権回収のため右競落後も同人に旅館営業を継続させていたが、同人が旅館業からホテル業へ転身して経営を抜本的に再建することを望んでいた。そのための融資を被告が自から行なうのは相互銀行法上の規制上困難があつたので、被告は同人に対し商社、保険会社と提携してホテル業をするよう勧めていた。

(四)  昭和四七年六月頃、被告の審査部次長宮越辰夫は、原告が折柄経済の高度成長と好景気に乗つて成長をつづけるレジャー産業等の事業に適当な投資先を求めていることを知り原告に那須を紹介した。

(五)  同年一二月二三日、那須、宮越らが発起人となつてホテル業を目的とする訴外会社(株式会社ニュースカイホテル)設立の定款が作成され、同月二六日那須久義を取締役、その妻那須マツエを代表取締役、右宮越を監査役として右訴外会社が設立された。

(六)  昭和四八年三月三日頃、訴外会社は、原告に対しホテル建設計画書を提出し、二億〇、〇五四万円の融資を申込んだ。

(七)  同月二三日本件土地は、被告から訴外会社へ譲渡され、同年四月三日その旨の所有権移転登記を了した。

(八)  原、被告、訴外会社の三者の間で折衝を経た後、昭和四八年七月ころ、原告がホテル建築の請負人になつて、請負代金を延払にするなどの方法で建築資金を、被告がホテル営業上の運転資金をそれぞれ訴外会社に融資し、訴外会社において什器備品を用意してホテル営業をするという訴外会社運営の役割分担の大綱が三者間で決められた。

(九)  宮越は、右のように訴外会社の大綱が決まり、その運営の目途がついたので、同月二四日訴外会社の監査役を退任した。

(一〇)  訴外会社は、原告に対するホテル工事請負代金の返済につき七年間の分割払を望んだが、原告が五年以内の返済を求めて譲らなかつたので、結局被告が原告に対し訴外会社に代つて右七年間の分割代金のうち最後の二年分を五年目に一括して立替払することで大筋の話合がついた。

(一一)  同年九月二九日原告と訴外会社とはホテル建築工事請負契約(請負代金総額三億九、〇八三万五、八九七円)を締結した。

(一二)  同年一〇月一五日原告は被告に対し、前(八)、(一〇)項の取決めを具体化した覚書の原案を送付した。原告は、当初被告が保証するよう求めていたが、被告はこれを拒否し、被告が原告の債権の一部を譲受け一括これを支払うことで話を進めていたところ、右原案では「被告が肩替りし、支払う」と定めるなど本件に関連する部分の大要は次のとおりであつた。

(覚書)(原告側原案)

第二条 丙(訴外会社)は乙(原告)に対し請負代金として金三九〇、八三五、八九七円を次のとおり支払うものとする。1着工時金九、五二四万円、2中間時(着工三ケ月後)同額、3中間時(着工六ケ月後)同額、4完成時一〇五、一一五、八九七円

但し、完成時にて支払うべき代金一〇五、一一五、八九七円については甲(被告)がこれを肩替りし昭和五四年一一月一日に現金で一括支払うものとする。

第四条 甲は丙が乙に対する債務を完済するまでホテルの運営を指導する他運転資金と乙に対する債務を返済させる資金を必要に応じ丙に融資するものとする。

第五条 丙は乙に対する債務を担保するため別に定める所により本件土地、建物に極度額×××円順位第一位の根抵当権を設定登記し且つ代物弁済予約による所有権移転請求権仮登記をするものとする。

第六条 乙は別に定める所により甲が第二条ただし書による代位弁済をした時には丙に対する根抵当権を甲に譲渡するものとする

(一三)  昭和四八年一〇月一九日被告は本件土地のうち別紙物件目録記載の三(2)ないし(9)の保安林につき、原因同年八月二〇日設定極度額三、〇〇〇万円、債権の範囲相互取引等とする根抵当権を設定した。

(一四)  同月二九日被告は原告側の前示(三)の原案に対し、およそ次のような挿入、削除を行うことの決裁をし、同月三〇日被告側の覚書修正案を原告に発送した。

(被告側覚書修正案)

「第二条但書の末尾の原告側案を「一括支払うものとし、丙はこれを異議なく承諾した。」と訂正する。

第四条 甲と乙は丙が本件債務を完済する迄ホテルの運営を指導するものとし、丙はその指導に従うものとする。

第六条を次のように改める。

乙は甲が第二条ただし書による代位弁済をする時迄に丙に対する根抵当権並びに代物弁済予約による所有権移転請求権を甲に譲渡する必要な書類の交付を了するものとする。

(但し、この譲渡する根抵当権は第五条に記載した順位第一位の根抵当権とする)

第七条 後記(十五)で成案となつた同一条項を追加する。

(一五)  同月三〇日付をもつて、原、被告、訴外会社間で大要次のとおりの「覚書」による契約が成立した。

(覚書)

第一条 乙は丙の注文によりニュースカイホテルを建設する事を約諾した。

第二条 丙は乙に対し請負代金利息口銭として三九〇、八三五、八九七円の債務を負担しこれを次のとおり支払うものとする。

1着工時金九、五二四万円、2中間時(着工三ケ月後)同額、3中間時(着工六ケ月後)同額、4完成時一〇五、一一五、八九七円。

但し完成時にて支払うべき代金一〇五、一一五、八九七円については、甲がこれを肩替りし昭和五四年一一月一日に現金で一括支払うものとし、次に丙はこれを異議なく承諾した。

第四条 甲と乙は丙が本件債務を完済する迄ホテルの運営を指導するものとし丙はその指導に従うものとする。

第五条 丙は乙に対する債務を担保する為、別に定めるところにより本件土地、建物に極度額四億〇、五〇〇万円順位第一位の根抵当権設定登記し且つ代物弁済予約による所有権移転請求権仮登記をするものとする。

第六条 乙は甲が第二条ただし書による代位弁済をする時には丙に対する根抵当権並に代物弁済予約による所有権移転請求権を各設定者の同意を得て、甲に譲渡する必要な書類の交付を了するものとする。(但し、此の譲渡する根抵当権は第五条に記載した順位第一位の根抵当権とする)

第七条 丙は甲が乙から取得した債権については甲に対して差入れた相互銀行取引約定書の全旨を承諾の上金一〇五、一一五、八九七円を債務元本としこれに甲所定の利息を支払うものとする。」

なお、当時はわが国の経済が高度成長下の好況時にあつたことなどから原、被告、訴外会社の三者とも訴外会社の原告に対する請負代金の分割弁済が遅滞することについての懸念が乏しく、その場合の処理、方法の配慮がなく、この点は覚書に記載されていない。

(一六)  同月三一日原告は別紙目録記載一の宅地三筆につき、それぞれ原因昭和四八年一〇月一八日設定、極度額二億九、五〇〇万円、債権の範囲売買取引、交換取引、消費貸借取引、使用貸借取引、賃貸借取引、請負取引、加工委託取引、売買委託取引、委任取引、寄託取引、保証取引、保証委託取引、立替払委託取引、輸出入業務委託取引、運送取引、手形債権、小切手債権(原告の根抵当権の債権の範囲は、以下同一)とする根抵当権設定登記及び代物弁済予約による所有権移転請求権仮登記をなした。

(一七)  昭和四九年六月一三日原告は別紙目録記載三の山林、保安林計一〇筆につき、それぞれ原因昭和四八年一〇月一八日設定、極度額一億一、〇〇〇万円とする根抵当権設定登記及び代物弁済予約による所有権移転仮登記をなした。

(一八)  同年七月一一日、原、被告は被告の順位一番の前示(一三)の根抵当権と前示(十七)のうちこれと同一の物件の原告の順位二番の根抵当権につき、原因同年七月一〇日合意により一番と二番との順位変更の登記を了した。

(一九)  同月二〇日原告は別紙物件目録三記載の物件につき、それぞれ原因昭和四九年七月二〇日設定、極度額一億円とする根抵当権設定登記を了した。

(二〇)  同年八月二二日、原告は別紙目録一記載の宅地三筆につき、原因同月二〇日設定、極度額一億円とする根抵当権設定登記及び代物弁済予約による所有権移転仮登記を了した。

(二一)  同年八月二一日原告は別紙目録三記載の物件につき、原因昭和四九年七月二〇日代物弁済予約による所有権移転請求権の仮登記を了した。

(二二)  同年九月二日頃、原告、訴外会社間で当時の第一次オイルショックによる工事材料代金高騰に応じて請負代金増額変更の目的で請負代金を三一、七七二、四四八円とする追加工事請負契約が締結され、同日原、被告、訴外会社間で前示(一五)と同内容の「覚書」による契約が成立し被告は原告に対し、右金員のうち金八、五三二、四四八円を肩替り支払うことを約した。

(二三)  同年一〇月三一日は別紙物件目録一記載の宅地三筆につき、原因同月三〇日設定、極度額二、五〇〇万円、債権の範囲相互銀行取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定登記を了した。

(二四)  その後訴外会社は本件ホテル建築請負代金のうち前示(十五)の第一回着工時支払分の分割金を支払つたがその後の分割金の支払をしないまま、倒産した。

(二五)  昭和五〇年二月二一日訴外会社は別紙物件目録二記載の建物(完成になつたホテル)の保存登記をした。

(二六)  同日原告は右建物につき、原因昭和四九年一一月三〇日設定極度額一億円の根抵当権設定登記及び原因、同日代物弁済予約とする所有権移転請求権仮登記を了した。

(二七)  同年三月二六日被告は右建物につき、原因同月二四日設定、極度額三、五〇〇円、債権の範囲相互銀行取引、手形債権、小切手債権とする根抵当権設定登記を了した。

(二八)  同年六月二六日被告から原告あてに大要次の趣旨の同意書を入れた。

「訴外会社の手形不渡事故発生により原告の請負代金等の回収不能をさけるため原告が根抵当権等担保権を行使することに同意する。なお、これにより原、被告間の覚書の効力は何等変更されない。」

以上の各事実を認定することができ、他に右認定を覆えすに足る証拠がない。

二  弁済約束の性質

原告主張の請求原因(五)の事実、即ち、被告が原告に対し訴外会社の原告に対する本件ホテル建築請負代金債務のうち前認定(一五)の一〇五、一一五、八九七円と同(二二)の八、五三二、四四八円の合計一億一、三六四万八、三四五円を昭和五四年一一月一日限り訴外会社に肩替りして支払うことを約したことは当事者間に争いがない。

しかし、右契約の法的性質につき原告は第三者弁済契約もしくは債務引受契約であると主張し、これに対し被告は債権譲渡契約であると反論し、またその内容についても争つており、この内容、法的性質如何が後記被告主張の同時履行の抗弁の成否を左右することにもなるので、まずこの点につき判断する。当事者間に右の肩替り支払契約がなされるに至つた経緯は前認定一(一)ないし(一五)、(二二)のとおりであり、とくに同(一二)によると原告側の保証要求に対し被告は原告の債権譲渡を受け一括支払う事で話を進めた結果、同(一二)記載の原告側覚書原案とこれに対する同(一四)の被告側覚書修正案を経て、成案となつた同(一五)の覚書による肩替り支払契約がなされたものである。合意が成立した覚書によると、第二条但書には「甲(被告)がこれを(訴外会社がホテル完成時に支払うべき代金)を肩替りし、現金で一括支払うものとし、丙(訴外会社)はこれを承諾する」と定め、第六条には「第二条ただし書による代位弁済をする時……」と記載されており、同七条には「丙(訴外会社)は甲(被告)が乙(原告)から取得した債権」との記載があり、また同六条には後記認定のとおり原告から被告への根抵当権の枠支配権ないし仮登記担保権の譲渡を定めていることに照らすと、本件覚書による肩替り支払契約は第三者弁済の予約と原告の訴外会社に対するホテル完成時に支払を受けるべき前示請負代金債権の一部をその債権額と同額の代金で譲渡する債権譲渡たる性質を併有しているものというべきである。

ところで、債権譲渡契約は一般に準物権行為といわれるけれども特段の事情がない限り、これも債権契約一般と同様法律上の原因を必要とする有因契約であり、この点は第三者弁済の予約についても異ならないと考える。

本件の場合前認定一の各事実、ことに一(一五)の覚書の各条項に照らすと、右覚書契約は、第三者が債権者に対し債務者に代つて弁済をなすことを予約する第三者弁済の予約と、その弁済額を売買代金とする前示債権及び根抵当権の枠支配権及び仮登記担保権の売買(譲渡)契約たる性質を併有し、両者が、互いに対価的意義を持つ双務契約たる一種の混合契約であると解すべきである。けだし、前認定一の各事実を考え併せると、本件覚書契約において、契約の当事者たる原、被告双方は互いに利益を求めているのであつて、一方が他方に利益・恩恵を与える意思をもつて給付が与えられそれが対価なきことを意識していたものとは到底いえず、当事者の主観から考えて給付と反対給付とが互いに対価的意義を有するものと認められるからである。

三  同時履行の抗弁の検討

(一) 前認定一(一五)のとおり覚書第六条は原告は被告が第二条但書所定の「代位弁済する時には」訴外会社に対する根抵当権並びに代物弁済予約による所有権移転請求権を原告に「譲渡するに必要な書類の交付を了する」と定め、これは前認定一(一二)の原告側覚書案第六条の「代位弁済をした時」には根抵当権を被告に譲渡するとの規定と、前認定一(一四)の被告側覚書修正案第六条の「代位弁済をする時迄に」「根抵当権、代物弁済予約による所有権移転登記請求権を被告に譲渡する必要な書類の交付を了する」との双方を調整したものと認められ、原告側が代位弁済に後れて根抵当権の給付をなす後履行関係を主張し、被告が先履行を主張したのをうけて、覚書成案では、「代位弁済する時には」……「必要な書類の交付を了する」と定め、結局両者の関係を同時履行の関係とする合意が当事者間で成立したものと認めることができ、本件全証拠をみてもこれを覆えすに足る証拠がない。

(二) そして、右同時履行の合意は前認定一の各事実を考え併せると同二のとおり、単に本来同時履行の関係の有無に疑問のある第三者弁済に基づく弁済者代位と根抵当権移転附記登記手続の同時履行関係を確認したにとどまるものではなく、原告の訴外会社に対する根抵当権の枠支配権及び仮登記担保権たる代物弁済予約上の所有権移転請求権の譲渡と、被告の原告会社に対する訴外会社の債務の肩替りの支払いが互いに対価関係を有する双務契約とする意思のもとになされたものと推認でき、これを覆えすに足る証拠がない。

(三) ところで、右同時履行の対象である根抵当権につき、前認定一(一五)の覚書第六条の但書には「但し此の譲渡する根抵当権は第五条に記載した順位第一位の根抵当権とする」と定めており、これはその文言及び本件覚書に記載された表示行為から判断して第五条の順位第一位の根抵当権全部を移転する契約であると解するほかないのであつて、原告主張のようにこれが根抵当権の分割ないし一部譲渡を指すものとは到底認められず、本件全証拠によるも右認定を覆えすに足る証拠がない。

そして、根抵当権の全部譲渡は被担保債権とは独立に譲受人に移転させるものであつて、譲受人はいわゆる枠支配権を全面的に取得することができ、譲渡人は以後全く根抵当権者でなくなり、その債権は譲渡当時被担保債権であつたものでも担保されず、かえつて、譲受人の債権が、当該根抵当権の被担保債権の範囲・債務の基準に適合する限り、譲受時にすでに発生していた債権をも含めて担保されることになる。

本件根抵当権の場合被担保債権の範囲は前認定一(一六)のとおり消費貸借取引、手形債権、小切手債権などが含まれており、これらは被告の訴外会社に対する相互銀行取引上の債権にも適合すると考えられるのであつて、そのこともあつて、被告は前示のとおり原告から本件根抵当権の枠支配権を譲受けたものと認められる。即ち、前認定一の各事実及び<証拠>に照らすと、原告は訴外会社が本件請負代金の分割金五年分を完済し、その後二年分の分割金につき被告が肩替り支払う際には原告の根抵当権は被担保債権の伴わないいわゆる空の枠のみとなるのでこの枠支配権全部を被告に譲渡する意思であつたものであり、被告も訴外会社の履行遅滞を十分予測せず右枠支配権の譲渡を受ける趣旨で本件覚書契約を締結したことが認められ<る。>

(四)  仮登記担保権たる代物弁済予約による所有権移転請求権は、法に特別の規定がない以上、原則として被担保債権と独立して譲渡することはできない。

しかしながら、仮登記担保権と併用された根抵当権の枠支配権について譲渡がなされた場合に、前認定のとおり被担保債権の一部を譲受けるのと引換えに仮登記担保権全部の譲渡を受けるという本件の場合には、右譲渡契約の効力を認めてよいと考える。けだし、少なくとも仮登記担保権の被担保債権の一部は担保権と共に譲渡されこの限度で付従性を充たしており、これには譲渡者が民法三七六条二項の趣旨からの制約以上に根抵当権の消滅を図るような残余の被担保債権に基づく仮登記担保権の実行としての所有権移転ができないことを明確にできる実益が存在するからである。

(五)  原告は、訴外会社が最初の五年分の分割金のうち第二回分以降の支払を遅滞したが、これは全く原、被告とも予測しないものでこの不払についての定めがないから民法の代位規定を類推適用して被告の弁済額に按分する額の担保権に限り譲渡を認めるべきである旨主張するが、前示(二)(三)のとおり、本件覚書契約では全根抵当権の枠支配権及び訴外会社に対する債権を被告の肩替り支払いと引換えに譲渡することを双務契約として約したものというべきであつて、その前提たる訴外会社の五年分の分割金の支払完了は単なるその動機にすぎず、たとえその完済予測が外れたとしても、それが表示された動機の錯誤として全根抵当権の枠支配権譲渡契約の無効をいうのでない限り契約の効力を左右するものではないから、その主張立証がない本件において右予測の誤認は前示全枠支配権譲渡契約の効力に何ら消長を来たすものでない。

なお、仮りに右根抵当権全部の枠支配権譲渡契約が何らかの理由で効力が失われたとしても、その場合には双務契約の一方の債務である被告の原告に対する肩替り支払い義務も成立しなくなるのであつて、かえつて、原告は本訴請求の根拠を失うというほかない。

したがつて、原告主張のように双務契約の一方の給付である根抵当権全部の枠支配権譲渡債務のみの効力を否定し、その部分につき民法五〇二条一項を類推適用することはできないと考える。

よつて、被告の同時履行の抗弁は理由がある。<以下、省略>

(吉川義春 村岡泰行 白石研二)

担保物件目録、物件目録、工事代金支払明細書(一)、(二)<省略>

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